デヴィッド・ボウイの「★」の参加アーティストをみると、このアルバムはジャズではないのか?…という疑問が起きそうです。
前回の記事においてジャズ畑に詳しくないことを告白しましたが、そんな私がこのアルバムを聴いてジャズではないと言うためには、まず「★」に参加したアーティストたちの作品を確かめなければなりませんでした。
★前回記事
ジャズの香り
まず手始めに、デヴィッド・ボウイやトニー・ヴィスコンティーが、よく聴いていたと語っていたケンドリック・ラマーを試してみました。「To Pimp a Butterfly 」というアルバムです。
面白いことは面白いアルバムだと思いますが、ヒップホップやファンクと言った臭いを強く感じました。(私は実はヒップホップが苦手)
次に、参加ミュージシャンの音楽を探してみました。
試したのはマリア・シュナイダー・オーケストラです。
複数のアルバムを聴きましたが、完全にジャズだと思いました。
ちょっとあやしくなってきたのは、ジェイソン・リンドナーとベン・モンダーを聴いた時です。
…これらはフュージョンかな?
そして、ジャズの判断基準を失ったのはダニー・マッキャスリン、マーク・ジュリアナ、ジェームズ・マーフィーと言ったアーティストの音楽に触れたときでした。
ジェームス・マーフィーはダンス・パンクとしてジャズとは別に分類したとしても、「ジャズとは何?」という状態に陥ったのでした。
「★」の音楽性
しかし、ダニー・マッキャスリン、マーク・ジュリアナ、ジェームズ・マーフィーらの音楽はやはり、「★」のものとは異質だと感じます。
参照 デヴィッド・ボウイ、新作『★(ブラックスター)』で目指すは“ロックを避ける”事!?(ビルボード・ジャパン)
おそらく、ビルボード・ジャパンの記事でも分かるように、ボウイらはジャズやダンス・パンクといった様々な音楽性を取り込みながら、それでもロックとして成立させようとしたんじゃないでしょうか?
そのことが「ロックを避ける」という言葉につながったのだと思います。
ここでは、ジャンルを超えた音楽性がロックという枠のなかで結実したものが「★」だと結論づけておきます。
つまり、ジャズではないのです。
「★」は映像作品
かなり聞き込んだので、様々なネット情報等に影響される前にまとめておきます。
まず、「★」を通して聴くと「Blackstar」〜「Dollar Days」までを一つの映像作品のように「聴く」ことが出来ます。
ストーリーが音を通して入ってくる感じがします。
簡単に言うと、(音楽なのですが)映画を見ているような感覚が味わえます。
私にとっては「Dollar Days」が最高潮で、映画のラストシーンのように思えるのです。
この曲を聴くと目が熱くなります。
そして、最後の曲「I Can’t Give Everything Away」は、まさにエンドロールを観ているような感覚です。
私はこれまでのレビュー記事で何度も「ストーリー性」という言葉を使いましたが、さらに思索をめぐらせると、以下のような仮説にいたりました。
「★」と「ジギー・スターダスト」の世界
デヴィッド・ボウイの詩作はルー・リードの影響を受けていると言われています。
人間の暗部を描きだすような指向性を持っているのもそのためかもしれません。
この「★」でも、その詩作の方向性は際立っています。
断片的で哲学的な詩からは実態を読み解くことは困難です。
そこで、私なりに思った事を書いておきます。
前回記事で
私はデヴィッド・ボウイが2016年現在に「ジギー・スターダスト」を復活させた姿が「★(ブラックスター)」なのではないかと深読みしてしまうのです。
と締めくくりました。
もう少しこのことを掘り下げてみたいと思います。
ジギー・スターダストと地続きにある世界
冒頭の曲「★」において
「Something happened on the day he died(あの者が死んだ日の出来事だった)」
というフレーズが出てきます。
この「he」を「ジギー・スターダスト」と置き換えると、「ジギーの世界」と「★の世界」を繋げて解釈できるようになります。
ジギー・スターダストは救世主になれず、絶望の淵に落とされ消滅します。
その後の世界に生まれたのが「blackstar」です。
その役割は世界を傍観すること。
このように考えるとアルバム「★」は以下のような構成として表れてきます。
- 冒頭の曲「★」によって「blackstar」を登場させます。
- 「’Tis a Pity She Was a Whore」〜「Dollar Days」までで「blackstar」が観る世界の混沌を表現しています。
- 「I Can’t Give Everything Away」は「blackstar」の諦念が歌われます。
もう一つの解釈を付加するとさらにドラマチックです。
ジギーは消滅したのではなく、何らかの方法で、「blackstar」として復活します。
救世主のジギーは傍観者として今も世界を見守ります。「I Can’t Give Everything Away」と嘆きながら。
このように解釈すると「地球に落ちてきた男」の「トーマス・ジェローム・ニュートン」と「ジギー・スターダスト」を結びつけることもできます。
さらに次のように考えるとアルバム「★」の構成も変わってきます。
消滅したジギーを「blackstar」が復活させた。
- 冒頭の曲「★」によって「blackstar」を登場させます。
- 「’Tis a Pity She Was a Whore」で堕落した世界を表現します。
- 「Lazarus」において「ジギー・スターダスト」の復活あるいは存在を象徴します。
- 「Sue (Or In a Season of Crime)」〜「Dollar Days」までで「ジギー・スターダスト」が観る世界の混沌を表現しています。
- 「I Can’t Give Everything Away」は「ジギー・スターダスト」の諦念が歌われます。
こうすると「Lazarus」も復活の意味を持ってきますね。
消滅したジギーは「blackstar」として、天で見守っている。
とも考えられるかもしれません。
……
いかがでしょうか?
かなり乱暴かもしれませんが、このような思いをめぐらせながら「★」に接すると、とても楽しめますね。
「★」が傑作たる所以です。
音楽的にはジャズとロックの融合を目指した実験的なもの、コンセプトはジギー・スターダストのその後の世界を描く意欲作が「★」です。
と結論づけていったんレビュー記事の締めくくりとします。
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