Photo by AIGA/NY
デヴィッド・ボウイのアルバムジャケットのアートワークはどれも、デザイン性と表現が豊かなのが特徴です。
特にアルバム「ヒーザン(Heathen)」以降のアートワークは秀逸で、驚きをともなうものでした。
これらのデザインを手掛けたのはジョナサン・バーンブルック(Jonathan Barnbrook)という英国のデザイナーです。
日本でも六本木ヒルズのVI(ビジュアル・アイデンティティ)を手掛けるなど、数多くの仕事で評価を得ています。
参照 ジョナサン・バーンブルック公式サイト(barnbrook.net)
バーンブルックは過去記事でも紹介したように、私が最も尊敬するデザイナーのひとりです。
このページでは「ヒーザン」から「★」までの各カバーアートワークを解説していきます。
※以下のカバーアートワークの解説は私自身の感覚によるものになっています。私個人の意見としてご了解下さい。なお、ジョナサン・バーンブルックを誹謗中傷する意図は一切ありません。
ヒーザン(Heathen)
ヒーザンのジャケットはロゴ「heathen」が逆さまになっていることが特徴です。
このアルバムジャケットの内側も聖母マリアの絵画にペンキを塗りつけたり、切り裂く写真で彩られています。
文章にもホワイトラインが引かれ本来の文脈の否定を意味する意図がくみ取れます。
「heathen」は「異教徒」の意味で、このジャケットのアートワークは「異教徒」的な蛮行の後をうかがわせる作りになっていますが、表ジャケットの「heathen」が逆さまになっていることで、「異教徒」を否定していることを暗に表現しています。
参照 David Bowie: Cover art for Heathen(公式サイトポートフォリオ)
リアリティ(Reality)
「ヒーザン」の重い写真とは打って変わってイラストでジャケットは飾られています。
「ヒーザン」と「リアリティ」のアルバム発売間隔は1年という短さで、姉妹アルバムといっても差し支えありません。
「ヒーザン」が「静」ならば「リアリティ」は「動」の印象が強いことから、陰鬱な写真表現からポップなイラスト表現になっていると思われます。
しかし、どちらも宇宙人的な印象を与えることで(ヒーザンのジャケット写真では目が特徴)宇宙から来たデヴィッド・ボウイのアイデンティティを表現しているように感じます。
このジャケットの内側はポップで明るい色彩と大胆なタイポグラフィが特徴になっています。
ここでも書体を逆さまにした表現が見られますが、ヒーザンのような深い意味はなく、動的な明るさを表現したものと思われます。
デヴィッドボウイが提示した「Reality(現実)」というテーマにイラストという非現実で回答したバーンブルックの力量に驚きを禁じ得ません。
参照 David Bowie: Cover art for Reality(公式サイトポートフォリオ)
ザ・ネクスト・デイ(The Next Day)
「ザ・ネクスト・デイ」のカバーデザインにも得意とする否定の手法が活かされています。
過去の傑作「ヒーローズ」のロゴに斜線を入れ、ジャケットをホワイトベースで塗りつぶすことによって、「The Next Day」で、次のステージに進もうとする「デヴィッド・ボウイの宣言」を上手く表現しています。
表面のモノクローム感とは裏腹に内面は明るい色が使われ、デヴィッド・ボウイの新しいステージを祝福しているようにも感じられます。
最初にこのアートワークを見たとき、現実のものとは思えない驚きを感じました。
このアートワークに関しては本人のブログで解説がなされていますので、お読みいただけるとカバーデザインの深さが分かると思います。
参照 David Bowie: The Next Day. That album cover design(BARNBROOK BLOG)
参照 The Next Day packaging design(BARNBROOK BLOG)
参照 David Bowie The Next Day(公式サイトポートフォリオ)
★(Blackstar)
このアルバムは既にデヴィッド・ボウイが死を見つめて制作したことは明かです。
「★」については、プレスリーの「フレイミング・スター」の歌詞からきたという説やガンに関する医学用語から命名されたとする説などが明らかになっていますが、真実が語られることはなくなってしまいました。
その重い命題に対して、★を配置した、このデザイン性の潔さは驚嘆に値します。
「BOWIE」を★の断片で表現したバーンブルックの手腕は素晴らしいです。
私は、この★の断片の意味するものをaladdindogsさんにコメントを頂くまで理解できませんでした。しかし、それを知ったとき、バーンブルックのすごさを感じることができたのです。
16ページのブックレットもバーンブルックのデザインによるものと思われますが、スターマーク、化学記号、波形パターン等を使って、作品の世界を見事に表現しています。
なかでも「Lazarus」に「目」のアイコンを当てたことにデヴィッド・ボウイの意図を正確に表現していることが分かります。
このカバーとブックレットのデザインには、どのような打ち合わせがなされたのか、興味が尽きません。
できれば、バーンブルック本人によるメッセージがブログや公式サイトで公開されることを願っています。
追記:以下のページで、バーンブルックのインタビューを参照できます。
参照 デヴィッド・ボウイ、『★(ブラックスター)』のアートワークに込められた意味が明らかに(NMEジャパン)
© bluelady.jp
コメント
ボウイはヒーザン以降、ジョナサン・バーンブルックにアルバムやシングルのアートデザインを任せていましたね。
「TND」とそこからのシングルのアートデザインはどれも素晴らしい物ばかりですね。
話しは変わりますが、やまりんさんがは「ベッケンナム・オディティ」のブートはお持ちですか?
いろんなタイトルで出ていますが、フィリップスのオーディション用にボウイがジョン・ハッチンソンと2人でアコースティックギターだけで録音したデモテープ音源です。
全9曲の内容は
1.SPACE ODDITY
2.JANINE
3.AN OCCASIONAL DREAM
4.CONVERSATION PIECE
5.CHIN A LING
6.LETTER TO HERMIONE
7.LOVE SONG
8.WHEN I’M FIVE
9.LIFE IS A SIRCUS
で、1と3だけ「SPACE ODDITY」40周年記念盤に収録されています。
アルバムに収録されなかった曲もどれもが、素晴らしく美しい曲です。
私はCDより音の良いアナログ盤でもっています。
CDは音は悪いですけど、感動はできると思います。
いろんなタイトルで出ているので、もう持っているかも知れませんね。
aladdindogs さま
どうも持ってないみたいです。
この全9曲とまったく同じ曲が入ったあやしいCDがあったので、探し出しましたが、違ったみたいです。
Black PantherレーベルのCDで曲の収録順がちがってました。
それにSUSSEX UNIVERSITY LIVE 1969と書いてありました。残念。
…と書きましたが、聴いていみると、アコースティック・ギターのみでデュエットみたいな感じだし、同じものではないのかな???
かなり美しい楽曲構成です。
ライヴにしては観客の声は入ってませんね。Jasracのシールが貼ってあったりして極めてあやしい雰囲気のジャケットです。
特徴はジャニーヌがヘイ・ジュードのメロディーになってます。
このCDはずいぶん聴いていませんでしたが、今聴くとしみじみとしていいですね。
「チンガリング」はアルバム収録の曲よりこっちの方が絶対いい!
やまりんさん、それですよ。
ライブと言うのは間違いです。これのオリジナルテープをぜひ、CD化して欲しいんです。
T・REXだったら出してそうですね。
繊細で美しいメロディー、初期ボウイの名曲集。ここには入っていませんが、同じ時に録音された
LOVER TO THE DAWNも加えて、公式発売して欲しいものです。
aladdindogs さま
今日、このCDを全曲聴きました。
とても美しい曲です。
ファーストアルバムよりこっちの方が絶対いいです!
公式アルバムに入っていない曲が、またいいです!
私のこのアルバムはたぶんブートではないと思います。
前述したようにJasracのシールが貼ってありました。(シールなのがあやしいですけど)
それに、日本語のライナーがついてました。
ボウイを知り始めた頃に買ったもので、TSUTAYAの中古CDで安く買えたのを覚えています。いっぱいあるCDになかで、手作りみたいな、あやしいジャケットが目をひきました。
こんな音源がいっぱいあるんでしたら、もう全部出して欲しいですね。
今、思い出したんですが、「スペイスオディティ」が当初サイモンとガーファンクルの曲見たいだと言われた事がありました。
そう言えば、このテープ音源はなんかS&Gみたいなフォークデュオって感じですね。
その路線も少しは狙ってたんでしょうか。
それと違う項に書こうかと思ってたんですが、ボウイがニューアルバムを出す度に何枚目のスタジオアルバムって言われるんですけど、いつも数が合わない様に思っていたんです。
今回の「★」が28枚目のスタジオアルバムになってますでしょ。
そうなんです、やまりんさんの大好きな「ブッダ・オブ〜」を入れるとちょうど28枚。
サントラと言うより、正規のボウイのアルバムとしてカウントされているんですね。
インストなんかも有りますが、最初にこのアルバムを聴いた時、あまりサントラと言う気がしなかったんです。
確かドラマに使われたのは、テーマ曲一曲だけだと、なにかで読んだ気がしますが、はっきり覚えていません。
ドラマも見た事ないですし。
「バール」なら、youtubeで見れますが、字幕がないのがちょっと辛いですね。
aladdindogsさん「ベッケンナム・オディティ」はジャニーヌがヘイジュードになっているので、正式版はむずかしいのでしょうか?
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スタジオアルバムの件ですが、「ブッダ・オブ・サバービア」が最初に出されたときはデヴィッド・ボウイがジャケットを飾っていませんでした。
ですので、「★」のジャケットにボウイが登場しなかったことで、初めてボウイが登場しなかったCDと言われる場合と、「ブッダ」を含めて2枚目のCDと言われる場合があります。
「ブッダ」の件で思い出しましたが、「ブッダ・オブ・サバービア」にはレニー・クラヴィッツがギターで参加しているバージョンがあるので、「デヴィッド・ボウイの周辺アーティスト」でいけそうです。
最後にこのページに出会った皆さんにうったえておきます。
本当に「★」と「ブッダ・オブ・サバービア」はあわせて聴いていただきたいです。
…私は何故か3枚も「ブッダ・オブ・サバービア」のCD持ってました。
私も最初は、ドラマの写真のジャケットのを買いましたが、ボウイのモノクロカバーで再発された時に買い直しました。
その後、さらにカラーになって再々発されましたが、それは買っていません。
あ。まさしくその流れです。
ついに、ジョナサン・バーンブルックが「★」を語りました。
参照:デヴィッド・ボウイ、『★(ブラックスター)』のアートワークに込められた意味が明らかに(NMEジャパン) – http://nme-jp.com/news/13106/