平井和正処女作が「レオノーラ」です。
「レオノーラ」とは人間に絶望した主人公「ケン」の妹「ジュリ」が旅行の間、ケンの将棋の相手をさせるため手配したアンドロイドの名前。
悲劇のレオノーラ
人種差別から集団リンチをあびた主人公は、心に深い傷を負いながら暮らしています。そこへ現れたのがアンドロイド「レオノーラ」です。
人間と区別が付かないほど精巧な「レオノーラ」に、はじめは嫌悪した主人公も「レオノーラ」の持つ優しさにうち解けていきます。「レオノーラ」がロボットだったからかもしれません。そして「彼女」の存在が「ケン」にとってなくてはならないものとなったとき、別れがやってきます。
「ケン」は「レオノーラ」との別れが避けられないのを知り、「彼女」を自分だけのものにするために「殺してしまう」のです。
悲劇的なストーリーです。人種差別という人間のエゴに傷つけられた主人公が結局自分のエゴのために「殺人」を犯してしまう。
人間の醜さを、人間でない者=アンドロイド「レオノーラ」の純真さに見事に対比させた傑作といえるでしょう。短編であるために妹「ジュリ」と主人公の関係が描き切れていない感じはしますが、ウルフガイシリーズへの可能性を十分に見て取ることのできる作品です。
アンドロイドという名の精霊
キーとなるのは人間の醜さを浮き彫りにしようとする姿勢と、人間以外の者の存在です。
「サイボーグ・ブルース」のアーネスト・ライトも「ウルフガイ」の犬神明も人間を超越した存在ですが、人間との関わりのなかで苦悩する。人間を愛したいけど醜さも分かってしまう。人間自体を浮き彫りにするために人間以外の彼らが重要な役割を果たしています。
「レオノーラ」については語り尽くされた感があります。
ラストは「ジュリ」が帰ってくる足音で締めくくられていますが、これはなにを暗示しているのでしょうか?
[1999.8.3]
追記
悪夢のかたち (角川文庫 緑 383-9) image by Amazon
「悪夢のかたち」には以下の短編が収録されています。
- レオノーラ
- ロボットは泣かない
- 革命のとき
- 虎は目覚める
- 百万の冬百万の夢
- 悪夢のかたち
- 殺人地帯
- 死を蒔く女
- 人狩り
中でも「死を蒔く女」は必読だと思います。
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新版も発売されています。
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