平井和正は情念の作家と言われています。「言霊使い」の方が一般的ですが、初期作品には人間悪の追求作業が多くみられます。
多分、「虎の時代」から「狼の時代」の作品群は情念の作家としての傾向が色濃く現れている作品が多いはずです。
(この「虎の時代」、「狼の時代」、「天使の時代」、「女神の時代」といった区分けをはじめて行ったのは誰でしょうか?知っている方いらっしゃいますか?)
そうした作品群に共鳴しながら、平井作品の虜となっていった私です。
今まで強く私を惹きつけた「情念を強く露出した作品」の一部を採り上げてみました。
「転生」(「悪徳学園」より)
この作品は平井和正の短編作品の中でもっとも好きな作品です。内藤由紀と江島三郎の愛は平井作品の中でももっとも美しいものの一つではないでしょうか?
愛する者の死を見つめながら、自分の生命をもかけた愛を注ぐことによって起こる奇蹟、死してもなお美しい肉体に転生するふたり。
この作品を読み終えて、あつい感情に包まれたのを覚えています。平井作品で最初に涙した作品でした。
「狼の紋章」
「犬神明」の存在そのものが、情念のかたまりと言っても過言ではないでしょう。
最終的には青鹿晶子のために、命をかけ戦う彼ですが、それまでの彼の軋るような生き方が印象的です。
「死霊狩り」
「人類ダメ小説」と平井和正はあとがきで述べています。
この作品は人間社会そのものにアンチテーゼを投げかけた作品だと思います。
「田村俊夫」が人間性を消失し、殺人機械として変貌していく様は圧巻です。
「狼よ故郷を見よ」
アダルト「犬神明」がはじめて妻と呼ぶべき相手と出会った作品です。しかしその相手「たか」は「犬神明」を守るため命を落とします。
「あたしは、あなたを産んだのよ」「あたしはこの三日間で、一生の分だけ生きた」そう言って「たか」は死んでいきます。
彼女の死は幸せだったのでしょう。しかし、残された「犬神明」の号泣はアダルトウルフガイのなかでもっとも悲しいシーンです。
まだまだたくさんの作品が私の心をとらえていますが、今回はこのへんで。
情念といっても「愛情」をテーマとした作品が私をつよくとらえてはなさないようです。
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