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平井和正の短編集や漫画原作ほどおもしろいものはありません。
なぜなら、それらの作品は後に形を変え、長編として結実する萌芽が含まれているからです。
なかでも「悪夢のかたち」収録の「死を蒔く女」は特別な作品と言ってもいいのではないでしょうか?
さらば「スパイダーマン」より
平井和正は池上遼一作画のスパイダーマンに途中から加わっています。
当時、平井和正は「狼男だよ」改竄騒動の直後で、小説家として絶命仕掛けていた時期でした。
そのため、ただの雇われライターとして受けた仕事がスパイダーマンの仕事だったのです。
平井和正は自らを「スパイダーマン殺し」と定義していますが、日本のスパイダーマンは平井和正が参加した後、アメコミとはまったく無縁のストーリー展開を見せます。
このようなストーリー分化がはたして許されるのかは疑問ですが、平井和正の持ち込んだ「青春の彷徨」路線は青春ストリーとして若者の共感をあつめ、みごとな和製スパイダーマンを作り上げています。
平井和正の提供したスパイダーマンのストーリーは氏の習作が使われていたり、後に別の平井作品として発表されたりと、興味深いストーリーが多いので、まとめてみたいと思います。
参考としたのは「夜にかかる虹」[上巻]:リム出版収録の「さらば「スパイダーマン」」です。
スパイダーマン「冬の女」と「ストレンジャーズ」
平井和正が担当したスパイダーマンの中で「冬の女」と「ストレンジャーズ」というストーリーがあります。
これらは平井和正が学生時代に暖めていた作品が元になっています。
対応は以下
- 原作「死を蒔く女」→「冬の女」
- 原作「見知らぬ者に百合はない」→「ストレンジャーズ」
(「見知らぬ者に百合はない」は後にノンSF作品集「虎はねむらない」に収録、「死を蒔く女」は後に短編集「悪夢のかたち」に収録)
特にこの「冬の女」は「悪霊の女王」として発展する重要な作品となっていることが、平井和正の以下の記述から分かります。
後に私は“冬の女”に発したブリザードの不吉な叫喚を、小説世界に育てあげた。「悪霊の女王」(徳間書店刊)がそれである。関心をお持ちの向きは、ご一読下さい。
※出典「夜にかかる虹」[上巻]:リム出版収録「さらば「スパイダーマン」」
元になった「死を蒔く女」を読み返してみると、主人公の意に反する力への苦悩など「悪霊の女王」との共通点が多数見つけられます。
スパイダーマン「金色の目の魔女」
もう一つスパイダーマンには重要なストーリーがあります。それが「金色の目の魔女」です。
このストーリーは後に中編小説「魔女の標的」となって結実します。登場人物は「超革命的中学生集団」の鏡明など、三輪真名子を含めておなじみの名前が見つかります。
信任の教師としてヒロインが登場するあたりは、悪徳学園にも共通点が見うけられます。
「悪徳学園」が「ウルフガイシリーズ」に発展していったことは言うまでもありませんね。
以下の平井和正の記述にも裏付けられています。
本編の「金色の目の魔女」は。後に小説として整理し、「魔女の標的」(角川文庫)となった。興味のある向きはご参照願いたい。
付記すると、本編は「ウルフガイ」のネガ像である。「精霊への道」はここに原点を持つ。「狼の紋章」は同時並行して書き進められていた。
※出典同上
その他のスパイダーマンストーリーの展開
平井和正が原作を提供したストーリーは上記の他に、「スパイダーマンの影」「虎を飼う女」がありますが、これらもアダルトウルフガイシリーズに再構築されています。
詳しくは「スパイダーマン(池上遼一)」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)をご参照下さい。
ただし、以下の記述については間違っていると思われますので、ご注意をお願いします。「夜にかかる虹」を参照すると順序が逆です。
平井の短編SF小説「魔女の標的」が原作であるが、ラスト(プロット)に違いが見られる。
死を蒔く女のヒロインは矢島絵里子に投影されている
死を蒔く女では名前を与えられなかったヒロインですが、後に「悪霊の女王」の「新井亜古」になったことは平井和正の記述でも明かですが、アダルトウルフガイ「凶霊の罠」の「矢島絵里子」とも同一存在であると言ってもいいかもしれません。
どちらも魔女存在となったまま、ストーリーは未完となってしまいました。
このように見てみると平井作品にしめる「死を蒔く女」のストーリーコンセプトの重要性が見て取れますね。
死を蒔く女から発展したストーリーまとめ
最後にストーリーの系譜をまとめておきます。
- 死を蒔く女→スパイダーマン「冬の女」→悪霊の女王
- 死を蒔く女→スパイダーマン→魔女の標的→悪徳学園→狼の紋章
- 死を蒔く女→スパイダーマン→ウルフガイ・凶霊の罠
スパイダーマン以外にも8マンから派生したウルフガイストーリー(大滝雷太編)もありますね。
スパイダーマンと8マンもストーリーの共通性が見られますので、いずれ見てみたいと思います。
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