image by Morgaine
「ピンナップス」の発表でRCAのアルバム制作義務を果たし、スパイダースと完全に決別したデヴィッド・ボウイはピンナップス発表前から取り組んでいた驚くべき計画の実現に向けて歩み始めます。
それがジョージ・オーウェルの傑作「1984」のミュージカル化(TV化)と「ジギー・スターダスト」のウエスト・エンドでのミュージカル化です。
両者共に頓挫してしまうことになりますが、「1984」のために描き下ろした楽曲はジギー・スターダストに次ぐコンセプトアルバム「ダイアモンドの犬(DIAMOND DOGS)」として結実することになりました。
もう一方の計画「ジギー・スターダスト」のミュージカル化についてですが、僕は、現在進行形の舞台化企画「Lazarus」として結実しようとしているのではないかと考えています。
「地球に落ちてきた男」は「ジギー・スターダスト」と同じコンセプトを元にした作品と言えるからです。
ジョージ・オーウェルの「1984」バローズの「ワイルド・ボーイズ」フリッツ・ラングの「メトロポリス」等の影響を受け、ディストピア社会を描く傑作
デヴィッド・ボウイは「1984」のミュージカル化のために20曲の楽曲を書き上げていたと言われています。しかし、ジョージ・オーウェルの遺族ソニア婦人の理解が得られず、計画はあえなく頓挫してしまいました。
そこで、デビッド・ボウイは自ら近未来物語を作り上げます。
それが「ダイアモンドの犬(DIAMOND DOGS)」です。
このストーリーについては1999年発売されたEMI版「ダイアモンドの犬」のライナー(赤磐和美さんによるもの)に分かりやすく記載されていますので引用します。
物語は “近未来に西洋文明が崩壊し、生き残ったミュータント(ヒューマノイド)たちは小さな部族を作り上げていた。ハンガー・シティに徘徊する部族たちを、ポーチャーズ・ヒル(密猟者の丘)から見つめる赤い目のミュータントたちがいた。ダイヤモンドの犬の時代を待ちながら…。これはロックン・ロールではなく、集団虐殺なのだ” というものである。「ジギー・スターダスト」や「アラジン・セイン」でも警告されていた破滅へのメッセージはここでも示されている。
出典:「ダイヤモンドの犬」東芝EMI株式会社 1999.9.29発売 ライナー 赤磐和美
これは冒頭の楽曲「Future Legend」のボウイのナレーションを引用したものです。
「ダイアモンドの犬(DIAMOND DOGS)」の世界観はジョージ・オーウェル「1984」が元となっていますが、ビジュアル的には「メトロポリス」の影響を受けているようです。
また「ダイヤモンドの犬」はバローズの「ワイルド・ボーイズ」で描かれた宝石店から略奪した装飾で飾った不良少年のイメージから生み出されたと言われています。
バロウズが「ワイルド・ボーイズ」で描いた宝石店から略奪した装飾具で身を飾る不良少年のイメージは、最高(ダイヤモンド)と最低(GODの裏返し)という正反対の両極をスパークさせた演劇的想像力を鋭く喚起するアイコンを生み出す。そして表現主義映画「メトロポリス」とナチスのニュルンベルク祭典を結びつけるという原理的に無理な注文は、高層ビルが身をよじって血を流すポップな図像とクレーンを組み込んだ巨大な舞台装置に結実した。
出典:文藝別冊 KAWADE夢ムック「デヴィッド・ボウイ 総特集」p196 ダイヤモンドの犬解説 福島恵一
この「ダイアモンドの犬」のキャラクターはベルギー人のアーティスト、ガイ・ピラートによってイラスト化されアルバムジャケットに使われることになります。(上半身はジギー・スターダスト、下半身が犬)
もともとイラストには犬の下腹部が描かれていたのですが、オリジナルのジャケットはRCAからのクレームでエアーブラシで消されたものになったという曰く付きです。(ライコから発売されたものから元の状態に戻されました。)コレクターにとっては垂涎の的になったとか。
バロウズの影響は「ダイアモンドの犬」のビジュアルだけに留まらず、作詞にもカットアップ技法を導入したと言われています。(意味のあるセンテンスを一度ばらばらにして再度つなぎ合わせる技法。この技法は「アウトサイド(1.Outside)」にも導入されました。)
とまれ、デヴィッド・ボウイはこの作品でハンガー・シティという独自の飢餓世界を作り上げ、「ハロウィーン・ジャック」という新たなキャラクターを生み出します。この作品世界の構築はデヴィッド・ボウイのインテリジェンスのなせる技であることは間違いありません。
この作品の制作過程をみると、後の「アウトサイド(1.Outside)」は(世界観は違いますが、)「ダイアモンドの犬(DIAMOND DOGS)」のリメイクであると言えると思います。
初のセルフ・プロデュース作であり、再びトニー・ヴィスコンティとの共同作業で制作された作品
スパイダースと決別したボウイはこのアルバムをセルフ・プロデュースで作り上げます。ジギー・スターダストからの栄光が、バックバンドに支えられたものではないことを示すためにも、あらゆるアイディアを投入した力の入った作品になりました。
ボウイはギター・サックス・キーボード等を自ら手がけています。
そして、トニー・ヴィスコンティと和解したボウイはストリングス・アレンジやミキシングを共同作業しています。
このアルバムの登場によってジギー・スターダストから続いたグラム・ロックは完全に終止符が打たれます。
アルバムの後半ではブラック・ミュージックの影響も見られ、次作「ヤング・アメリカンズ」に続いていくことになります。
(僕は前半の「Sweet Thing」「Candidate」「Sweet Thing (Reprise)」の流れが最高に好きなんですが…)
30周年記念版収録の「1984」
ボウイは1973年10月18日から20日にかけて米NBCテレビの番組「ミッドナイト・スペシャル」用に「1980年フロア・ショウ」を収録していますが、これがスパイダースとの最後の仕事になりました。
その中では「ダイアモンドの犬(DIAMOND DOGS)」収録の「1984/Dodo」が演奏されており、そのスパイダース版の曲は「ダイアモンドの犬(DIAMOND DOGS)30周年記念盤」のボーナスディスクで聴くことが出来ます。
また、オリジナル版の「Candidate」(Alternative Candidate [Demo For Proposed 1984 Musical])も収録されています。是非、手に入れて聴いてみて下さい。
www.bluelady.jp
ダイアモンドの犬 30thアニヴァーサリー・エディション
キャンディデイトが注目です。
by Amazon
コメント
日本盤が発売される前、新宿レコードで輸入盤のLPジャケットを見て興奮したのを思い出します。
早く聴きたい気持ちを抑えて、日本盤の発売を待ちました。
奇怪な雰囲気のボウイのナレーションに続きボウイの弾くリードギターが、シナトラで有名な曲「魅せられて」のフレーズを奏で、歓声と共に始まる「DIAMOND DOGS」
カッコイイの一言ですね。アップテンポのロックチューンは確かにストーズぽいですが、それが実にグラムロックしていて良いんです。
グラム期最後の傑作だと思います。
オーウェル夫人の許可が得られなかったことで生まれた「DIAMOND DOGS」ですが、LPのB面2曲目から5曲目までは、もろ「1984」の内容になっています。
TVショウの「1980フロア・ショウ」も「BAAL」共々オフィシャル発売して欲しいものですね。
aladdindogsさま
早速、ありがとうございます。
グラム期のアルバムの中で、ひょっとしたら「DIAMOND DOGS」が一番好きかもしれないと、記事を書きながら思いました。
この時期は傑作ばかりで、どのアルバムのキャッチにも「傑作」の文字が入りそうでこわいです。
「ダイアモンドドックス・ツアー」(後に途中からフィーリードックス・ツアー)〜アルバム「ヤング・アメリカンズ」〜アルバム「スティション・トゥ・スティション」〜「リターン・オブ・シン・ホワイト・デューク・ツアー」の頃、ボウイはコカイン漬けのかなりの薬中だったらしい。
「デビッド・ライブ」は録音する事をバンドメンバーに知らせず、録られたと言うが、ボウイの声は薬で枯れ、度々ライブ中の記憶が無かったらしい。
それでも、「ヤング・アメリカンズ」「スティション・トゥ・スティション」なんて言う傑作を作ってしまうんだから、やはり天才。
その後、イギーと共に薬抜きにヨーロッパに戻り「ロウ」「ヒーローズ」と言う、これまた傑作を作ってしまう。
大天才だ。
まさしく、その通りですね。
既に「ヤング・アメリカンズ」のページも書き上がっていますので、「ダイアモンド・ドックス・ツアー」〜「フィリー・ドックス・ツアー」への変遷や、「デヴィッド・ライブ」のことにも触れています。
足りない部分は、また、フォローをお願いします。
コンセプトアルバムとして人類史上最高傑作だと思ってます。(全部聴いたわけじゃないけど)
最初かは最後まで一つの舞台を鑑賞しているかのような完成度。感動!です。
(多分、僕はジギーよりもこっちの方が好きです。)
Rock.n roll with me は妻も好きで、結婚式の入場のBGMにしました。歌詞の意味も知らないのに。笑
カラアゲボーイさん「Rock.n roll with me 」が結婚式の入場のBGMとはイカしてます。
このアルバムは最初から最後まで、本当に劇的に流れていきます。
ビジュアルにしてもコンセプト・アルバムだと一目で分かります。
ボウイの気合いがめちゃめちゃ入っているアルバムですね。