Photo by Légendes Lorraines
ジャンヌ・ダルクは誰もが知っている女性です。
教科書にも出てきますし、歴史の参考書にも女性でありながらオルレアンを解放し、ランスでシャルル7世を即位させた英雄として登場します。
その名は誰もが知るところですが、実際の人となりは謎に包まれています。
百年戦争終結への一石
ジャンヌ・ダルクが歴史に登場したのは1429年(シノン仮王宮でシャルル王子と面会)。
当時フランスはイギリスのエドワード3世がフランス王位継承権を主張したことによって勃発した百年戦争(1339〜1453)のまっただ中でした。
当時のフランスは、イギリス・ランカスター朝のヘンリ6世が北部を支配、東部はブルゴーニュ候、南部をフランス・ヴァロア朝のシャルルが支配するという状態でした。
長期に渡る戦争によってフランスという国家意識自体が国民から損なわれていったと思われます。戦争も内戦と変わらぬ状態でした。
そこに、神の声を聞く少女・聖処女(ラ・ピュセル)が登場したのです。
そのカリスマ性は国民意識の再統合を果たし、フランス兵の本来の力を糾合することに成功したのでした。
歴史は彼女の出現を契機として百年戦争終結へと流れていきました。
実際のジャンヌ・ダルクは?
17歳で戦場へ出、シャルル7世を戴冠させた後のジャンヌは、イギリスの捕虜となり、異端として火あぶりの刑に処せられます。19歳の若さでした。
その短い激変の人生は多くの歴史家や作家の興味をそそることになります。
かくいう私自身、様々なストーリーのモチーフとなった少女のことを知りたい思いから、この記事を書くことになったわけです。
ジャンヌ・ダルクの生涯は教科書で学べるはずもなく、おもしろい本はないかと探して見つけたのが藤本ひとみさんの「ジャンヌ・ダルクの生涯」です。
本書は藤本ひとみさんがフランスへ赴き、取材と史実でジャンヌ・ダルクの実像をつづった良書です。
百年戦争の原因にも言及されています。
教科書には絶対載らない「イサベル」の行状にもふれてあり、とても面白く読ませていただきました。
ジャンヌ・ダルクについてはこういった良書に任せるとして、私が感じたジャンヌの印象をまとめることにしましょう。
ジャンヌ・ダルクの性格
私が感じたジャンヌ・ダルクの性格は、猪突猛進型の少女というものです。
目標に向かう行動がとにかく性急な感じなのです。
サン・ルゥ砦の勝利から一気呵成にオーギュスタン要塞、トゥレール防壁を攻略し、オルレアンを解放する速攻にもその性格が現れています。
戦場にも出るのですから、かなりおてんばかもしれません。
違和感があるのは、「シャルルを即位させよ」という神の声を聞いたということです。
自らの負傷を予言したという逸話もあります。
少々オカルティックで、今では想像も出来ません。
王宮へ行くためにヴォークルール砦(※)の隊長ボードリクールを2度にわたって説得した行いを見ると、神への信仰は深いものがあったことが分かります。
しかし、この信仰深さを直情径行と読み替えるとどうでしょう。
直情径行の猪突猛進型の少女を想像すると、どこにでもいる現代的な少女という感じさえしてくるのです。
※ヴォークルール砦はジャンヌ・ダルクの生まれ故郷・ドンレミ村の近隣砦
ジャンヌ・ダルクは戦神の象徴
ジャンヌは戦術も兵法も知らない、ドンレミ村の農家の娘です。
そんな少女がオルレアンを解放するという功績をあげるということに違和感を禁じ得ません。
ジャンヌ・ダルクの戦いには偶然と幸運があったという歴史家も多数に上ります。
しかし、私が最もその功績をたたえたいのは、ジャンヌその人ではなく、ジャンヌ・ダルクに甲冑を着せ、旗を持たせ、戦神の象徴とした人物です。
この鎧はトゥール(仮王宮シノン近くの交通の要所)で作られた特注品といわれています。
命じたのはシャルルであったとする記述もありますが、さだかではありません。
いずれにしてもジャンヌ・ダルクの姿は兵士たちの士気をたかめ、フランス勝利への原動力になっていったことは間違いありません。
純粋なるが故に利用された少女
ランスを陥れシャルルを王に即位させた彼女は、次の神からの使命である「パリ奪還」を成し遂げようとやっきになります。
しかし、シャルルが即位した後、ジャンヌ・ダルクは王の諸侯として取り込まれ、神を体現した存在ではなくなってしまいました。
王のために働く諸侯と神のために働くジャンヌとは行動原理が全く異なります。
そのため、他の諸侯との摩擦や陰謀によって、ジャンヌの行動は制限されていきました。
パリ奪還の失敗は、和平交渉を重視した王と消極派の諸侯たちの行動の鈍さに起因するともいわれています。
速攻したいジャンヌと王との摩擦はその後ジャンヌ処刑という悲劇の運命を加速させていくことになります。
王即位後のジャンヌの冷遇はシャルルを王位に就けるためにジャンヌを利用したものの存在を想像させます。
ジャンヌ・ダルクはその信仰の純粋さ故に利用されただけの悲しい存在だったのかもしれません。
ジル・ド・レの変貌
さて、やっと表題のジル・ド・レのことになります。
ジャンヌ・ダルクのことを調べ始めて直ぐに興味を持ったのは「吸血鬼」といわれたジル・ド・レがオルレアンの戦いに同行していることです。
ジル・ド・レは盲目的にジャンヌ・ダルクを信仰した武将といわれています。
オルレアンの戦いで武勲をあげると王国元帥の地位を与えられています。
そのような立派な武将が、錬金術や黒魔術に傾倒し、吸血鬼といわれる悪逆をなしたとは、とても信じられません。全く別人のようです。
ジル・ド・レが勇将から吸血鬼へ変貌したのはジャンヌ・ダルクが処刑されたことに起因します。
その行為はひょっとするとジャンヌ・ダルクを生き返らせたいという強い思いが動機になったのかもしれません。
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