中島梓(栗本薫)さんが1970年代後半に発表した平井和正論「狼の肖像」を引っ張り出してみました。
このブログの「平井和正の書籍」カテゴリに入れ忘れていたからです。
平井和正作品については様々な文庫で解説が掲載されています。
しかし、本格的な評論としてはこの「狼の肖像」が唯一のものではないでしょうか?
「狼の肖像」平井和正論
中島梓は栗本薫の別名義です。
評論等は中島梓名義で出版されていたと思います。
(以下は栗本薫さんで)
栗本薫の大ファンでもある私が、この本を最初に読んだのはウルフガイ・ドット・コムのe文庫になった際だと記憶しています。
今ではAmazon等の電子書籍として手に入れやすい本になりました。
平井和正の作品区分に「虎の時代」「狼の時代」「天使の時代」といった分類を最初に定義したのは、この書籍だったようです。
本のタイトルにもなった「狼の肖像 – 平井和正論」以外にも2編の論文が掲載されています。
「狼の肖像 – 平井和正論」は雑誌「奇想天外」に連載されたものです。
惜しいことに5回連載された後、続きを予告しながらも連載が継続されることはありませんでした。
以下、章立てを記載しておきます。
- 情念の溶岩流 – 狼男の魅力
- ダイナミズムの系譜 平井和正の展開と転回
- 狼の肖像 – 平井和正論
その1 虎は目覚める
その2 サイボーグは目覚めない
その3 二人の犬神明
その4 狼は目覚めたか
その5 自意識過剰のスーパーマン
前半の論文2編から平井和正論 その3あたりまでは非常に興味深い内容だと思います。
「情念の溶岩流」では平井和正を「情念の作家」と提示し、「ダイナミズムの系譜」では平井和正が「流動する作家」「言霊使い」であることを言い当てています。
さらに「虎は目覚める」において、前述した「虎の時代」「狼の時代」「天使の時代」の時代区分を登場させています。
これらを読むと平井和正の一般化した論評は栗本薫さんが元になっていることは明かです。
このような鋭い目線をみてしまうと、今でも亡くなられたことが惜しまれます。
……
「狼の肖像 – 平井和正論」では、「メガロポリスの虎」「サイボーグ・ブルース」「ウルフガイ集団」へと解説が進み、その後ヒーローとはという考察に進み始めたところで少々分かりにくくなってしまいました。
これは私の読解力レベルにもよるかと思います。
「自意識過剰のスーパーマン」の最後で、
「次回の平井和正論」は「悪霊の女王」および「超革命的中学性集団」にみるメタモルフォーズの分析になるはずである。
と締めくくられているのですが、これ以上の連載は実現されませんでした。
三山驚ファンの栗本薫が書く「悪霊の女王」についての論評は大変楽しみなものになったであろうと想像できます。
「悪霊の女王」は平井和正の八犬伝か水滸伝のような小説で、登場人物が出そろったところで終了しています。
この途中となった小説を栗本薫はどのように読み解いたのでしょうか?
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